2020年9月1日開業
MOXY Osaka Shin Umeda
系 列 : マリオットインターナショナル
種 別 : ホテル業
概 要 : 新築ホテル
所在地 : 大阪府
範 囲 : 総合クリエイティブ監修, インテリアデザイン,アートディレクション,アートデザイン製作, 照明計画,照明デザイン,ランドスケープディレクション, FF&Eデザインおよび一部製作,一部建築デザイン監修
ミッション | MOXY のブランドを維持しつつ、ワイズ・ラボ独自のクリエイティブタクティクスに基づき、新梅田らしいオリジナルデザインを構築すること |
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アプローチ | ブランドブックに基づいたmoxyブランドを継承しつつ、大阪新梅田エリアが持つ独自性の発見とそれに対するローカライジングを確立させる |
遂 行 内 容 | クリエイティブ全般におけるタクティクスとして、シナリオからシーンづくり、そしてストーリーの展開を見据えた総合インテリアデザイン等 |
MOXYホテルの面白さは《遊び心》。しかも各地によって全く異なる仕掛けである。もちろんホテル共通のテーマは存在するが、一方で地方色豊かなその違いを出すことも求めれている。
それがゲストにとっての大きな楽しみであり、ワクワクするようなゲスト体験につながるのである。
実際このMOXY大阪新梅田は、我々にとって2つ目のmoxyホテルであるが、そういった意味では2つの異なるホテルを手掛けさせて頂いたようにも感じている。
通常この規模のホテルにはブランド戦略があり、それに基づいた施設のマニュアルも用意されている。
しかしマニュアルはあくまでも「方針」であって、ゲスト体験に通じる「シナリオ」ではない。
特にMOXYホテルはブランドを表現するのに守らなければならない4つのテーマがありこそすれ、
「それぞれのロケーションごとに持つ地域の特色を出す」ということがテーマの最重要課題とされており、
これがホテルの雰囲気を考える上で重要なエッセンスとなっている。
ミレニアル世代やノマドワーカーに対し絶対的な存在感を生み出し、トレンドリーダーとしてこの業界を牽引して行くこと。
言うなれば、これがMOXYホテルのデザイナーに課せらたミッションである。
MOXYデザインのゴールは、このスタイルを通じて、ソーシャルメディアの中心となる“セクシーで活気に満ちた社会”の中心的プラットフォームとなるものを創造し、提供すること
ローカルの雰囲気やソウル・エレメントを的確に捉え、インテリアやアートを通じてその歴史や発展に“視覚的に訴えかけるストーリー”を開拓していくこと
ミレニアル世代に共感・シェアされるインパクトのある体験を通じて、“ビジュアル的なスカベンジャー・ハント(scavenger hunt)”を生み出して行くこと
一方で我々ワイズ・ラボは、《クリエイティブタクティクス ✖ 建築 ✖ インテリア》を提供する設計事務所である。
クライアントの課題解決をゴールとした「戦術的アプローチ」を計画し、「建築本体」と「インテリア」をシームレスにつなぐ設計デザインを提供している。
《クリエイティブタクティクス》という言葉は、あまり馴染みがないかもしれないので、ここで少し説明をしておきたいと思う。
「タクティクス」とは、いわゆる「戦術」のことである。つまり創造的、独創的な視点から「戦術的アプローチを計画する」ということである。
なぜあえてそんな言い方をするかというと、建築・インテリアの世界では、未だに与条件を確認後、直ぐにコンセプト立案を行い、
その後はデザインの実行計画に移るのを当たり前としていることが多いからだ。
コンペなどまさにその極みである。簡単に箇条書きされた目的や条件だけを渡されただけで、
コンセプトやデザインを提案するのは、いささか強引なやり方であると感じている。
我々がつくるのは「建築」や「インテリア」であって、単なる「箱」や「床壁天井」ではない。
「詩」がただの「文章」とは違うように、建築やインテリアも同様で、常に人に感動を与える《ドラマ》があるべきなのである。
映画やTVドラマを作る際、あらすじ一つでまだシナリオもない内に、いきなりセットを作り始めることはないだろう。
必ず初めに「シナリオや脚本づくり」が行われるはずだ。
それはなぜか?
なぜなら最終的にどんな「ストーリー」になるかによって、どんな「シーン」が必要か、またそこにどんな「演出」が必要か決まっていないからだ。
我々の仕事も同様である。施設の計画をする際にいきなり場のデザインを考え始めない。
デザインを単なる場の「演出」程度として考えるのではなく、よりゲスト体験全体をクリエイティブな視点から捉えているからだ。
まず登場人物があって、時間や場所、そして感情や行動などの設定を踏まえた「シナリオ」を検討し、利用するゲストに感動や喜びを与える1つの「ストーリー」に仕立てて行くのだ。
事業計画が予め決まっている「あらすじ」だとすれば、我々が描く「ストーリー」には、登場人物や場面に合わせたそれぞれの演出効果を含む感動の「シーン」が必要となる。
時にはゲストにサプライズを与える「ワォ!!!」体験があり、また別の時には日常を忘れた喜びに満たされる瞬間があるかもしれない。
こうしたシーンを1つずつ掘り起こし、これらをつなぎ合わせて1つのストーリーに仕立てることが、《クリエイティブタクティクス》における重要なアプローチなのである。
さてこうなると、設計の段階においては、想い描いたそれぞれの重要な「シーン」が、ゲストたちにとって名場面となるように、より具体的な装置や演出といったステージを作り込む作業となる。
当然、同じ場においても登場人物や時間軸が加わることによって、異なる体験が起こることも想定される。MOXYにおいても人数や時間軸が異なることで、また違ったシーンが再現されることを想定しており、
これが一般的なインテリアデザインとは異なるデザインレイヤーの厚みと考えており、最終的にはゲストが得る物語りの深さとなるのだ。
さてこのMOXY大阪新梅田のデザインを語る上では、まず立地となる大阪の新梅田(福島区)について語らなければならない。
大阪、福島区から抽出されるエッセンスとはどのようなものだろうか?
大阪の人のみならず、誰もが知る大阪。特徴あるモチーフや造形。
ビジュアルインパクトのあるフォルムやカラー。ハイコントラストなネオンたち。
ここ大阪には東京以上にエキゾチックで情感溢れるストレートな表現に溢れており、
世の中の大半がグローバル化して行く中で、大阪にしかないものが今も存在している。
プロジェクト当初は「特徴がないのが特徴」のように感じた福島エリア。
大都市の中心駅に隣接しながらも一見何の変哲もない、ちょっとがんばれば自転車で回れてしまいそうな小さな街。
まるで都市化する都に「置いてきぼり」をくらったような裏路地や工場跡。それは光と影のような存在のようでもあった。
しかしその曲がりくねった路地を歩き廻ると、小規模なレストランが所狭しと立ち並び、毎日多くの客で活気にあふれている街であることに気づかされる。
やがて何度もリサーチを積み重ねて行くうちに発見されたことが幾つもあった。
それはここがパナソニック(旧:ナショナル)やダイハツといった今や世界をリードする大企業の創業の地であったということ。
現在も航空機や最先端ロボット、医療器具などの重要な部品を供給する工場があるということ。またあの福沢諭吉の生誕地でもあった。
そう、福島エリアは一言でいうと、「おおいなるアーバンビレッジ (かつて当たり前のようにあった生活風景のある町)」 でありながら、
アイディアと技術で時代の最先端をリードしてきた街、「メカニックアーケードの街」だったということが分かった。
よって福島らしさの表現は、この地に宿るDNAとして、福島の手で作られたパーツの一部やこの地に住む人たちにとっての日常をデザインのモチーフに用い、
新たな日常やスタイルとして表現していくことと考えた。検討の末、以下をテーマに据え、デザイン組み立てる上での共通のエッセンスとした。
moxyのデザインづくりをする上で「視覚的に訴えかけるストーリーを開拓していくことが重要」であることは前述した通りである。
ここからは各シーンのテーマをご紹介しよう。紹介するのはシーンごとにおけるゲスト体験のほんの触りの部分となるが、
実際のデザインはこれらを元にドラマティックなシーンを描いて行った。
ゾーンごとに飾られたアートには共通のテーマとして「大阪のスピリットやシーンを日本が誇る技術や技法によってアートにする」ことにした。
またMOXYホテルでは、ディスプレイ等の小物のセッティングの事を「ステージング」と呼んでいる。
ここがゲスト主役の舞台であり、これらのアイテムがそれぞれの舞台を盛り上げる演出的役割を果たしているのが、このことからも分かるだろう。
大物のアートでローカルのアイデンティティを表現しつつ、それぞれの場を盛り上げる効果として目的に合わせたステージングを使っていく方法を取った。
【シーン1】ゲストのお出迎え
ホテルのエントランス
アーティストによる「壁面アート」
BARカウンターがレセプションでもある
@Zone 2: レセプション/ ゲストロビー
「ようこそ大阪へ」
ようやくたどり着いた大阪、新梅田。それは旅の終着点ではなく、これから始まる冒険の出発点である。
大阪がどんな街なのか、MOXYがどんなホテルなのか、そしてこれから何が起こるのか?
それはまるで子供の頃に行った遊園地 ― ワクワクしてスキップで向かったゲート、乗り物まで待ちきれず思わず走りたくなった気持ち・・・。
忘れていた、そんな期待を胸にワクワクした気持ちを描いたのがこのシーンだ。
水都大阪が出迎える
エントランスロビーの暖炉上部にあるアート《水都大阪》は、長旅の末到着したゲストに対し「ウェルカム!」というメッセージを込めて
アクリルペイントで制作した、大阪新梅田エリアのランドスケープアートである。
テーマは「活気ある大阪の風景」と「不思議な街、福島」との融合である。
キャンバスに描かれた背景には「梅キタ」と呼ばれる、いわゆる梅田周辺の川辺の様子と、観光地や大阪の街並みを描いている。
観覧車やスカイビルなどの地元の観光資源に加えて、福島のアイデンティティとして機械部品の並木道などをモチーフに取り入れている。
キャンバスの下部に設置した斜めの枠は実はダークミラーとなっており、水都大阪らしさを表現している。
ミラーに反射した風景が堂島川に映る川面のように映るように計算されている。
また本当の街の風景と同様に、照明効果による時間の移ろいを演出している。朝から昼は外光を中心とした朝のさわやかな水景を。
日没以降の夜間は前方のスポットライトで光と影による夕闇に包まれる街を。
深夜帯は下部の間接照明に切り替え、静かに眠りにつく街となっている。
ホテルにたどり着いた時、バーで飲んでいる時、飲み明かして深夜部屋に帰る時、翌朝を迎えた朝食の時、
意識しなければ気づかないかもしれない街の風景のように、同じ景色でも見る時、見方によって発見があるだろう。
バーカウンターと一体となったレセプション
MOXYのレセプションはバーエリアと一体となった空間にある。
ドアをくぐるとカウンターには、タトゥーを入れた金髪の外国人風のバーテンダーがいる。
日本人には少しショッキングかもしれないが、外国人からすればばやっと馴染みの店に来た気がするような親しみのある風景である。
しばらくするとバーテンが目配せをして、そちらに来るように呼び寄せていた。
その時にようやく気づく。そう、彼こそが、時にバーテンダー、時にレセプショニストという存在だったことに。
ワイズ・ラボが当初提案制作した「壁面アート」。タイトルは《水都大阪》
【シーン2】仲間でワイガヤ
ファイトクラブシーン(イメージ)
天井ライトとLEDエフェクト
ミゼットの切り絵アート
ミゼットの切り絵アート
Table PONG(音声付)
@Zone 4:カフェラウンジ/ ゲーム /クラブスペース
「さあ、今日は何して集まろう」
このゾーンはパブリックスペースの中では最も変化に飛んだ場所で、昼間のシーンと夜のシーンでは大きく異なるのが特徴である。
昼間は外光が気持ちよく降り注ぎ、周辺の緑に囲まれてとても落ち着いた「カフェ空間」となっている。
一方、日が沈んでからは大通りのヘッドライトの帯も賑やかになり、最新のミラーボールによってガラッとムードが変わりる。
特にディスコナイトには、イベントに合わせてレイアウトも変化できるようにし、エキサイティングな「クラブシーン」をつくり出せる。
ここでは日中と夜では客層も異なり、多くの人たちで賑わい、その数だけ出会いや遊びが展開されることであろう。
ファイトクラブのリングで熱い戦いが催される
中央のテーブルは、ファイトクラブのリングをイメージしている。
天井には、” It’s show time! ” と言わんばかりのライティングと、イベントを盛り上げる最新デジタル式のLEDレーザーエフェクトを設置。
フェンスに囲まれたハイテーブルの中央には「テーブルPONG」というアタリ社のゲームがある。
このゲームは、デジタルのブロック崩しをあえてアナログの「機械仕掛け」にしたユニークなものである。
ディスコナイト時は、オープンステージに
ディスコナイトの際は、テーブル型リングは片付けられる。ゲームとテーブルを退かせば、そこはオープンなクラブシーンとなる。
DJミキサーに連動し、LEDレーザーエフェクトが勝手にモーションされます。
MOXYにおいてのディスコナイトは定番のイベントなので、是非お酒を飲みながら楽しんでもらいたい。
この地で誕生したイノベーション、《街のヘリコプター》をアートに
賑やかでムードのある空間には、この地で生まれ親しまれた、あるイノベーションをアートとして取り入れることにした。
2層吹き抜けのコンクリート壁面には、この地で生まれたあるイノベーション的プロダクトからインスパイアされたアートをつくった。
ダイハツの「ミゼット」だ。ミゼットとはダイハツ工業が1950年代から1970年代の日本の高度成長期に生産した三輪自動車である。
当時まだ四輪自動車はおろか、三輪でさえ高価で手が届かなかった零細企業・商店主が大多数であり、ここが未開拓のマーケットだった。
ダイハツはここをターゲットに税金の安い軽自動車として、その利便性を売りに小口輸送の需要を満たす廉価版の三輪商用車を開発した。
これがまさにイノベーションだったのである。ラグジュアリーなものではなく、あえてコンパクトにまとめ、
機動力を発揮したい人たちに着目をしたマーケティング戦略は、MOXYのそれに通じるものがあると、密かに感じていたのである。
ところでミゼットという名前の由来は英語のMidgetで「小人」や「チビ」という意味があり、小型な車という想いを込めてつくられた。
また当時の販売戦略として、その利便性を売りとする「街のヘリコプター」というキャッチフレーズが付いていたのも面白い。
それが大きな偉業を成し遂げたこともあり、その偉業に敬意を払い、あえてアートとしては「大きく」インパクトのあるものにしてみたかった。
これは日本の切り絵細工を行うアーティスト、《尾関幹人》氏に依頼をした。
普段は紙を即興で細工する尾関氏であったが、今回は耐久性を考えてアクリル板での制作を依頼した。
厚みを出すため3層に重ね合わせライトバルブとフレームを一体としたプラモデル風にというのが我々からのオーダーである。
あえて完成体ではなく、バラバラに分解したものをアートにするには、実は理由がある。
完成したもの(ましてや既に開発が終了したもの)を改めて分解して見比べることで、それぞれのパーツの個性を知ることが出来る。
そしてそれらの中から未だ使えるものを拾い出し、組み替えることで新たなイノベーションを生むことにつながる。
イノベーションは偶然ではなく必然である。そんな想いをメッセージにしたかったのである。
バラバラのものから頭の中でくみ上げて走る姿に想いを馳せる時、また違った形の未来が見えるかもしれない。
そんな過去と現在そして未来をつなぐ作品にしたかった。
【シーン3】旅の準備に向けて
外部からタコアートを臨む
ステージング
ライブラリー正面から2Fのジムを臨む
ライブラリーゾーンのテーブル席
@Zone 1:ライブラリー/ ミーティングスペース
「さあ、次は何をしようか。お楽しみはここからだ」
入口入って右手のこのゾーンは、ライブラリー、ミーティングルーム、ラウンジスペースから成る。
日中はここも外光が降り注ぎ、明るく静かな空間であろう。
ハイカウンターや目線の切れるスクエアタイプのカウンターデスクなど一人で何かするのに丁度良い空間だろう。
MOXYのゲストにはノマドワーカーも想定されており、そのため全席WiFiと電源が確保されている。
こういった空間であれば、ビジネスとプライベートの「行ったり来たり」のトランジションをスムーズに移行できるに違いない。
夜は静かにお酒を傾け、物思いにふける
夜間でもこのエリアは先のカフェラウンジとは異なり、静かに読み物をしたり、何か物思いふけるのに良い環境と言えよう。
ノマドワーカーにとっては、仕事もプライベートの延長線上にあるので、急に集中したい時もある。
ライブラリーはまさにそういう時のための空間だ。さらによりプライバシーを求めたい時には、扉をクローズ出来る個室も用意してある。
そこには大型のモニターも付いているので、プレゼンを想定した準備などにもうってつけであろう。
大阪のシンボルをシャンデリアアートに。巨大なタコ現る
MOXYが目線に入ったその時から、おそらく気になっていたであろう物体がここにある。
そう、それはシャンデリアのように光輝く、タコのオブジェである。しかも色が七色に変化するタコである。
日中は休眠しており、ほとんど色も光もない状態だが、夕暮れ時からこのタコは活動を始める。
色は薄いピンクから黄色や青に変わり、ゴールデンタイムは真っ赤に燃えたと思えば、レインボーカラーにもなる。
例え昼間は静かに物思いにふけっていても、夜にこれを見れば、かなり愉快な気持ちになること間違いなしだ。
思い切って仕事は終わらせ、インスタをアップして皆を驚かせようか!?・・・そう、MOXYはそういうところなのだ。
ずっとじっとはしていられない。ワクワクするものが沢山あり、誰かとそれを共有したくなる。
ここにいる人、ここにいない人。それぞれがMOXYのこの場を通じて、つながることが出来るのだ。
なぜタコか?
元々ここは、大きな交差点の正面であり、マリオットの方から特別インパクトのあるモノを付けて欲しいという要望があった。
光輝くインパクトのあるもの・・・そう聞いて私が真っ先に思いついたのはタコである。
ご存じのようにタコは、新大阪の駅の売店でもお土産のキーホルダーとして売っているぐらい、馴染みのあるキャラだ。
あるいは外から来た人々に、「大阪はほんまタコでっせ」と印象付けたいものの1つだと言える。
そしてタコ焼き。これは間違いなく大阪のソウルフードであろう。これも新大阪の駅を出た直ぐのコンコースで食すことが出来るぐらいだ。
この2つをモチーフに、タコが「タコ焼きを作って喜んだり、逆に食べられて怒ったり」の喜怒哀楽を表現しようと考えた。
(その後トラもどうかという意見があったが、地方から来るゲストがアンチである場合もあるのでこの考えは却下となった。)
最初は冗談のように思われていたタコの案だったが、私は何としてもこの大阪のシンボルであり、ソウルフードの立役者でもあるタコをモチーフにしたかった。
なのでタコの存在価値を上げるため(←タコさん、申し訳ない)、日本の重要無形文化財である「ねぶた」の技術を融合させることを思いついた。
しかもMOXYらしく、派手にLEDライトを使って、色が変わるシャンデリアアートにすれば納得も出来ようと。
そう思い、半ば強引に青森まで職人に話を付けに行ったことで、この案は急に現実味を帯びた。
そしてプロジェクト後半は、関係者に対し、この大阪のシンボルが当たり前のようにホテルのシンボルとなったのである。
シャンデリアアート《タコ焼きに踊るタコ》の七変化の様子
【シーン4】仲間と飲み明かす
レセプションと一体になったバーカウンター
キッチンと連結したフードカウンター
窓際テーブル席
オープンテラス(傘なし)
フーズボール
ピンボール
@Zone 4:バーおよびフードエリア
「ドリンク片手に、楽しい仲間たちと飲み明かそう」
moxyデザインの特徴はこのエリアかもしれません。バーカウンターを兼ねたレセプリョン。一見バーテンダーの様なホテルスタッフ。
一般的な人が持つホテルのイメージとは大きく異なることでしょう。しかし慣れてくるとこれがフランクで実に良いと感じるはずです。
ホテルなのに馴染みの店の様に顔を出し、馴染みの顔と酒を傾け語り合う。時にこれに旅行客が混じり、地元客との交流も始まる。
ミレニアル世代にはちょっと刺激的で、でもどこか古き良きアメリカのような懐かしやあこがれも感じる体験となるでしょう。
BARの上は日本酒、カクテル、ビール、ウイスキー、ワインなどのお酒やディスペンサー。
そして樽やデキャンタなど、お酒に関係する物中心にステージングをしています。
またキッチンカウンターには食に関係するグラスや皿などをステージングしています。
オープンテラス
春秋といった中間期の涼しい季節に利用できるテラス席を用意している。
当初テラスを作ることは清掃やセキュリティの点から敬遠されたが、海外の雰囲気を出すのには絶対欠かせない場として熱心に説得することで実現した。
結果出来てしまえば隣の公園との相性が良く、誰もが納得できる気持ちの良い空間となった。
通り沿いに面しているが、グリーンで軽く遮ることで「抜け感」と「囲われ感」のバランスが程よく取れた。
植栽は現在育成中であるが、いずれは緑に包まれた素敵な空間になるだろう。
夏場はさすがに日差しがきつい。そこで日除として、文字通り「日傘」を取り外し式にして吊るせるように施してみたが、これがとても雰囲気が出た。
連続した日傘のディスプレイがアートのような面白さを出している。
ゲームコーナー
ここには定番のピンボール台を置いてある。日本のものを置きたいと思い、わざわざ任天堂のマリオを見つけてきた。
またFOOSBALL(テーブルサッカー)も欠かせないアイテムとして設置した。年齢性別関わらず、誰もがドリンク片手に楽しめるだろう。
このコーナーの奥にはMOXYでは定番のインスタと連動した、四連モニターが設置してある。
「#ATTHEMOXY」と打ち込めば、全世界のMOXYゲストとINSTAGRAMを通じてつながることが出来る。
エレベーターホール
エレベーターを待っている間の時間は長く感じるものである。良くあるのは、ミラーを置いて身だしなみをチェックすることで気を紛らわせというもの。
でもここはMOXYである。待っている間もワクワクの熱を冷ましてはならないし、遊び心を忘れてはならない。
壁面には海外で活躍している銅版画家《西脇光重》氏に依頼を頼んだ。少しコミカルで味のあるモチーフを用いるが、これが銅版画ということで独特の世界観生まれる。
# AT THE MOXY
床には“# AT THE MOXY”の逆さ文字があるのに気付いただろうか?
これは「変だな」と思って天井を見てもらえば、気づくはずだ。そう、上を向いて自分がMOXYにいるという写真を撮るための仕掛けだ。
エレベーターホールもワオ体験する仕掛けが
# まるでシャンパンシャワー
エレベーターのドアが開くと思わず、「わぁ!」と叫びたくなる仕掛けを用意した。
それはウェルカムシャンパンシャワーのような、ライティングエフェクトだ!
ここにパートナーがいれば「MOXYでの楽しいひとときの始まりにカンパイ!」として欲しい。
これでテンションもアゲアゲとなっただろうか。部屋への期待も高まるだろう。
エレベーターのドアが開くと溢れんばかりのシャンパンシャワー
思わず「テンション上がるー!?」
これらのパーツは一体?
蛇口から溢れる沢山の部品はこの地で生まれていた?
色々な撮り方を工夫してみるのが楽しい
ゲストルーム
MOXYといえばペグウォールというイメージはないだろうか?家具は、ある意味使わないときはスペースを取る置物である。
必要ないときは壁にかけて置けば良いという実に潔い発想から⽣まれたこのアプローチは、ミレニアル世代の考えを良く捉えていると言える。
必要なものを必要な時にだけ使うシンプルでミニマルな発想。その中でも自分らしい空間をカスタムしたいという志向に合致している。
カラースキーム
今回のインテリアやセレクトした家具は「梅キタ」というエッセンスを取り⼊れ、本町と比べると少しナチュラル感のあるもの採⽤している。
壁に掛けることを前提にデザインされた家具であるため、壁にかかった時の⾒え⽅も実に楽しげである。
機能的にはひと手間かかるものの、使わない時には部屋が広く使えるという選択肢があるのが良い。
フロアランプ
フロアランプは⼿元灯としての役割を持たせつつ、ここでもMOXYらしい遊び⼼を表現している。
エレベーターホールのシャンパンエフェクトのように、こちらも天井に光の粒がはじけるように広がるようデザインしている。
ダブルルーム
ツインルーム
アートパネル
ペグウォールに掛かったアートには、ローカリティーを感じられる趣向を凝らしている。
1つは、ここがパナソニック創業の地であることにちなんで、当時の松下電機が創業時に生んだヒット製品である
二股ソケットをモチーフにMOXY電球を昭和のレトロなポスター⾵に描いている。
ここに描かれているワニは《マチカネワニ》というワニで、30~50万年前に生息したとされる体長7mの大型ワニである。
1964年に大阪で化石が出土し、日本で初めてのワニの化石として話題を集めた。
名前が「待ちかねた」と聞こえ、面白かったこともあり採用した。《三浦愛子》氏作。
もう1つは、ミゼットに乗りこむ動物たちである。THE RHIGHT WAY?という看板に何を感じただろうか?
「この道は本当に正しいのか?」という問いである。
ここに描かれた動物は絶滅を危惧されている希少動物たちである。
乗り込もうとしているのは、今はもう必要とされなくなってしまったミゼットである。
果たしてこれに乗り込むことは本当に正しいのか・・・?これに乗り込むことで彼らはどこに行ってしまうのだろうか・・・?
いずれにしても動物たちに選択肢はないのだ・・・。
「消えていってしまったもの」と「消えてほしくないもの」の対比を表現したアートである。《当社》作
ペグウォール
《二股ソケットに乗るマチカネたワニ》
《THE RIGHT WAY?》
ART & STAGING ITEMS
MOXYホテルにおいてアートやステージングアイテムは、ゲスト体験において非常に重要な仕掛けである。
なぜならこれらはただ見るだけのものではなく、ホテル内を散策していく中で、色々な楽しみを与えてくれるからである。
1つはインスタグラムなどの「映え」である。ただ写真を撮るだけでなく、この瞬間にここにいるというインパクトが重要である。
もう1つは、スカベンジャーハントである。
日本ではあまり馴染みのない言葉かもしれないが、アメリカでは子供でも一度は体験したことのあるとても定番のレクリエーションだ。
直訳すると「がらくた集め」だが、色々なものに興味を持って一つひとつ確かめ考えながら散策するとてもアメリカらしい遊びだ。
ひとたび興味を持ったことを調べていくと、奥の深いストーリーに出会ったりするのが面白い。
今回のアートテーマは、大阪のアイデンティティやスピリットを日本の技術や技法と融合させることとした。
なぜこれをシンボルと捉えたか、これらは大阪のどこから来たのか、そしてどんな技術と融合しているのか。
こんなことを考えながら一つ一つを眺めていくと、また新たな楽しみ方が出来る。
ここに載せた以外にも沢山あるので、是非実際にホテルに足を運んで頂き、自身の目でスカベンジャーハントにチャレンジして欲しい。
Q.それでは最後に、ワイズ・ラボからのスカベンジャーハント問題を出します。
01. アートの中で一番お金がかかったのは?
02. アートに使われている部品の中で、実際この地で作られているものは?
03. ミゼットの切り絵の中に隠されたmoxyの文字はどこにある?
04. 廃品で作られたアートはどれ?
05. 実際に買うことのできるアートはどれ?
06. ここは元々ライオン本本社があったビル。それが分かるものはどこにある?
07. シャンパンシャワーに包まれた空間はどこにある?
08. エレベーターホールの蛇口をひねると何が出る?
09.「 明日天気になーあれ」と大きく蹴った長ぐつはどこにある?
10. ここには子供たちが遊んだ後の忘れ物がある。それは何でいくつある?